公開日:2017年4月24日

スペシャルコンテンツ

『広告』2017年 春 5月号

滝口隊員のクレイジーファシリテーション“心のパンツ”はどう脱ぐか?

本音をさらけ出すと思わぬところで叩かれたり炎上したりするんじゃないか、という恐さがあるこの時代。一方で、だからこそ、思っていることを率直に示せる人が魅力的に見える。そこで「この人、いいパンツの脱ぎ方してるよなぁ」と思えるお三方といっしょに考えてみた。人は、どうしたらもっとパンツを脱ぐことができますか?

杉村太蔵(右)
タレント。元衆議院議員。「料亭行ってみたいっす。料亭行った事ないですよ! 行きたいですよ! 料亭!」などの発言で世間に大いに叩かれたが、実はそれは世の中の人が国会議員に対して漠然と思っていたことだったのではないか。タレントになった今もその言動は自由奔放。一方で番組全体に気を使ったポジショントークという説も。実際のところはどうなのか?

國咲舞花(中)
はるな愛さんが優勝したことで有名な「ミスインターナショナルクイーン」の2016年度日本代表。18歳でニューハーフの世界に入った。親にカミングアウトするとき、どんな思いだったのか。今は、このインタビューが行われたニューハーフショークラブ「GINZA FLAVA」で働いている。

佐藤紳哉(左)
プロ棋士。七段。対局中にカツラを外して相手を威嚇する、などのエピソードが有名。2012年NHK杯インタビューでの「豊島? 強いよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。だけど……俺は負けないよ。え~、こまだっ、駒たちが躍動する俺の将棋を、皆さんに見せたいね」という発言は【放送事故】というタグとともにネットで話題になり、将棋ファンだけでなく広く世間から注目を集めた。

そもそも、3人はパンツを脱いでいるのか?

みなさん聞いたことがないかもしれないですが、僕がよく使う言葉に「パンツを脱ぐ」という慣用句があるんです。ちょっと下品な言い方ですが、“自分をさらけ出す”という意味でして。僕は個人的に「人はもっとパンツを脱ぐべきだ。その方が人が生きやすい世の中になる」と考えていまして、今日はその仮説のもと、お話をお聞きしたいと思っています。さっそくですが、心のパンツを脱いでさらけ出す、ということについてどう思いますか?

國咲私、18歳で初めて母親に伝えたんです。「ニューハーフの世界に入りたい」って。そうしたら、母が「女性として生きなさい」って認めてくれたんです。わかってたらしいんですよ、私がそういうタイプの人間だってこと。小3のときに初恋で男の子を好きになってから、ずっと。でも、私はずっと恐くて言えずにいた。今はホントに言ってよかったって思います。さらけ出してよかったことしかなかった、と言ってもいいくらい。

杉村僕はね、自分が自分をさらけ出してるなんてこれっぽっちも思ってないんです。言いたいことの2、3%くらいしか言ってない。だから、今日の趣旨とはズレるかもしれませんが、僕はまったくパンツを脱いでないし、脱ぐことがいいことだとも思わないんですよ。  ただね、自分の考えは明確に言おうとは思ってます。それはね、その方が、人が反論しやすいから。自分の意見を明確に言えば言うほど、人は反論しやすいですよね。

反論しやすいと何がいいんですか?

杉村反論しやすいってことはですよ、意見が合っている部分と合ってない部分が明確になるってことじゃないですか。「ここまでは意見がいっしょだね。ここからは意見が違うね」ってことがわかれば、議論もできるし、お互い妥協点も探れるようになる。これはね、コミュニケーションにおいてとっても大事な考え方。「あなたと私は考え方が違うんだ」というところからスタートしないと。僕はね、「考え方が違う」という言葉がね、大好きなんです。

なるほど、でも反論される恐さもあると思うんですが。

杉村反論されるのは別に恐くないですよ。だって、意見は違って当たり前だもん。それに、意見の違いを明確にしないと妥協もできないですよね。反論と批判は違うんですよ。

そうか、相手と折り合いをつけるためにも、まずは反論できる土台をつくることが重要なんですね。

佐藤僕はカツラを被ってまして、20代前半までは髪の毛が生えてたんですが、27歳くらいから薄くなってきました。たしかに、僕にはハゲっていう一般的に弱点とされる部分、マイナスな部分をプラスに変えて、周りを楽しませてやろうという意識はあります。対局中とか大盤解説中にカツラをとったらウケるんじゃないか、とか(笑)。ただ、僕も別にパンツを脱ごう、自分をさらけ出そうと意識しているわけではないんですよね。

大変さの乗り越え方

杉村なるほど、國咲さんと佐藤さん、おふたりの話を聞いていて考えさせられちゃうのは、なんて言うか、見た目ってものすごく評価の基準になっちゃうじゃないですか、残念ながら。いや、失礼に聞こえたらすみません。ただ、20代で毛が抜けてハゲになった、これはね、相当なことですよ。自分は女性として生まれたかったのに男として生まれた、これはね、大問題ですよね。この見た目の問題を乗り越えるのはたやすいことじゃないですよ。私にはそういう乗り越えなくちゃいけないことが一切なかった。20代でハゲてもいませんし。だからこそ聞くんですが、どうやって乗り越えたんですか? その乗り越え方をぜひ、おふたりに教えていただきたい。

佐藤大変だったっていう意識はそんなにないんですよね。そもそも、ハゲって意外にモテるんですよ。顔立ちもそんなに悪くないですし。

イケメン棋士ですもんね。ちなみに、育毛剤とか使ってました?

佐藤20代前半は使ってましたね。使ってたんですが、どんどん抜けていって。27歳あたりであきらめました。春先はとくに抜けましたね。

春先ですか、植物の生え変わりみたいですね(笑)。育毛剤を使っていたってことは、最初は気にしてたってことですよね。でも、どんどん抜けていくうちに気にならなくなった。どうしてそうなれたんでしょう?

佐藤う〜ん…やっぱり、あきらめた、ってことが大きいかもしれません。ハゲてない状態に固執するんじゃなくて、そういう自分はあきらめて、今の自分の状態を認めるというか。そうすると気にならなくなりますね。

たしかに、自分で理想だと思っている状態と今の自分を比べても辛くなるだけですよね。理想の状態をあきらめて、今の自分の状態を認めて受け入れる、ってことですかね?

佐藤そうだと思います。さらけ出すことも1回やっちゃえば楽になるんですけど、それができない人は生きづらいでしょうね。

國咲私も、大変だったっていう意識はそんなにないんですよね。そもそも、男として生きるか、ニューハーフとして生きるかを選んだときに、その先の大変さもわかっていたので。自分は自分のままでいいんだって認められた喜びの方が大きくて、むしろ、今の道を選ぶ前の方が迷ったり、周りの人もどう扱っていいかわからなかったり、大変だった気がします。

杉村なるほど、でもね、國咲さんはおキレイだからいいですよ、どう見ても女性ですし。けれど、女性として生きる道を選んでもキレイになれない人もいるじゃないですか、どうがんばってもキレイになれない。女性の道を選んだのにキレイになれなくて残念なビジュアルの方もいますよね、ホントにこんなこと言って失礼なんですけど、でも事実としてそういう人はいるわけで、そういう人はどうなんですかね?

國咲うーん…キレイになれるかどうかよりもまず、自分で自分を認められる、ってことの方が重要なんだと思います。昔、2年くらいお付き合いしてた男性がいたんです。外国の方で筋肉のあるマッチョな人だったんですけど。ある日、その人が「女性になりたい」って言い出したんです。その人は男として、女であるわたしと付き合ってた。でも、セクシャルマイノリティであるわたしと付き合って、「あ、もっと自分をさらけ出してもいいんだ」って気づいたんだと思います。実は女になりたいと思っていた自分を認めてもいいんだ、って。マッチョだったからキレイとはちょっと違うけれど、それでもいいって。わたしは男性としてその人と付き合っていたので、受け入れることはできなかったですけど。
だから、キレイになれるかどうか、よりもまず、女性らしい格好をしたいとか女らしくいたいっていう自分を認めることが大事なんだと思います。

他人と比べない、自分を認める

「あきらめる」とか「自分を認める」とか、自分をさらけ出すためのキーワードがいくつか出てきたように思います。それを聞いて、杉村さんはどう思いますか?

杉村いやー。私、おふたりの話を聞いて、ホント、つくづく自分は恵まれてるなぁ、と思います。なんにもあきらめてないですもん、私。だって26歳で衆議院議員になって、結婚して、子どもがいて、どんなに忙しくても週休2日だし、テレビにも出られて、ホント恵まれてますよ。

でも、テレビで求められている発言をする、って難しくないですか? 他の人よりうまくしゃべれるだろうか、とか気になりません?

杉村全然! そんなこと、まったく考えてませんよ。だって、心配したってしょーがないじゃない!

國咲たぶん、比べてないんじゃないですか? 他の人と自分のことを。

杉村たしかにそうです、私はね、他人と一切比べないんです。他人と比べたって仕方ないから、そういうことはしない。テレビの場合、私がうまくやれなくてもそれは私を呼んだ人の責任。私に責任はないんです。もちろん、その場では一生懸命やりますよ。今日だって「パンツを脱ぐ」って言われてもまったく共感できなかったですもん。共感できないけど、考えて話す。それ以上は呼んだ人の責任ですよ。それが大事。なんでもかんでも自分の責任にしない!

たしかに、今日、杉村さんがうまく話せなくても、それは呼んだ僕の責任ですね。このテーマでお話ししてもらえると思ったからお呼びしたわけですし。

杉村そう、それって要は期待値で呼ばれてる、ってことですよね。すべては期待値なんです。期待値があればそれでOK。結果値で判断されるわけじゃない。

國咲他人と比べない、ってのはすごく大事だと思います。ニューハーフってついつい人の目を気にしすぎちゃう世界なんですね。憧れの人と自分を比べてついつい自分の足りないところばかりに目を向けちゃったりとか。でも、そういうことをやめたら生きるのがスゴく楽になりました。それまでは自分の足りない部分、つまりマイナスな部分に目を向けてたんですが、それよりも、プラスのことを意識する方が大事ですね。

佐藤棋士もそういうところがありますね。勝負事だからもちろん比べられちゃうんですけど。ただ、棋士人生って長いんです。だから勝負を続けていくうちに、角がとれて、人と比べても仕方ないって思えるようになるんですよね。淡々と続けることが大事なんです。

その先に目を向ける

さらけ出すポイントは見えてきたんですが、それでもやっぱりさらけ出すのに恐怖は感じないですか? 國咲さんはどういうきっかけでさらけ出せるようになりました?

國咲表舞台に出るのは恐かったですね。自分が「ミスインターナショナルクイーン」に出るなんて考えたこともなかったし。エントリーを考えたきっかけは、「お店の宣伝のために出てほしい」って言われたからなんです。でも、そうやって背中を押してくれたことで、自分でも「よしチャレンジしてみよう」って。口実があると自分を出しやすいですよね。失敗しても仕方ないって思えるし(笑)。

佐藤あぁ、たしかに口実って大事ですね。僕も将棋をもっと知ってもらって広めるため、っていう口実がありますもん。対局中にカツラをとったりするのも、自分が目立ちたいってだけじゃなくて、将棋を広めるためだって思うとやりやすい。怒られたりもするんですが、おもしろがって喜んでくれる人もいる。大盤解説のときとかイベントのときとかに、「いつカツラをとるんだろう?」って期待されたりもするし。

怒られるかも、という恐怖心はなかったんですか?

佐藤それより好奇心の方が強かったですね。「これをやったら、どんな世界が見られるんだろう?」っていう。さらけ出すと世界が広がる、って思うんです。今日みたいな取材もそうですし。いろんな人が興味をもってくれたり話しかけたりしてくれる。

杉村さんもそうなんじゃないですか? 自分の意見をはっきり言うってのはやっぱりある種のさらけ出しで、だからこそ、いろんなことやいろんな人に出会えた、ってことがあるんじゃないかと思うんですが。

杉村たしかにそれはありますね、想像もしてなかったようなことを体験できてますもん。ホントにラッキーだと思いますよ。

佐藤口実って話とつながるんですが、好奇心を大事にして自分をさらけ出したその先に目を向ける、ってのが大事なんだと思います。

さらけ出すかどうかに意識を向けるよりも、もっとその先に広がる世界に目を向ける。そうすると、その途中はそんなに気にならなくなるんですかね。

佐藤そういうことだと思います。

國咲あぁ、そうかもしれない。

なるほど、今回のテーマは「パンツをどう脱ぐか?」ですが、脱ぎ方よりもその先に広がる未来に目を向けることの方が大事だ、と。とっても大事な視点をもらった気がします。今日のこのテーマは議論しにくかったかもしれませんが、納得できる示唆をいくつもいただきました。ありがとうございました!

インタビュアー:滝口勇也
クリエイティブファシリテーター。博報堂で事業・ブランド戦略のビジョン開発と広告制作業務を担当。3年前、髪が薄くなってきたので坊主にした。口癖は「僕、パンツ脱ぎたいんすよ」。
写真:高橋宗正
取材協力:GINZA FLAVA(ginza-flava.com)